Note10.内積空間(標準内積とエルミート内積)
Preヒルベルト空間というべき内積空間をやります。
タネ本は、新井朝雄「量子力学の数学的構造 Ⅰ」です。
1.内積空間の定義
Fを、実数体Rまたは複素数体Cとし、HをF上のベクトル空間とする
(Rの場合は標準内積空間、Cの場合はエルミート内積空間です)
Ψ、Φ∈H に対して、数<Ψ、Φ> ∈F が、
以下の4つの性質を満たす時、<Ψ、Φ>を、
Hの「内積」とよび、HをF上の「内積空間」という。
(1) 線形性: 任意のΨ、Φ1、Φ2 ∈H と a,b∈F に対して、
<Ψ、aΦ1 + bΦ2> = a<Ψ、Φ1>+ b<Ψ、Φ2>
(2) 対称性: 任意のΨ、Φ ∈H に対して、
<Ψ、Φ> = <Φ、Ψ>*
ここで、<Ψ、Φ>の値を aとすると、a*は a の複素共役
(3) 正値性: すべての Ψ∈H に対して、
<Ψ、Ψ> ≧ 0
(4) 正定値性:<Ψ、Ψ>= 0 ならば、Ψ=0(Hの零ベクトル)
(僕は、内積の値∈Rと思いこんでいました。が間違いです)
2.上記(4) 正定値性 を満たさないが、(1)(2)(3)を満たすベクトル空間を
半正定値性内積空間と呼ぶ
3.反線形性
任意のΨ、Φ1、Φ2 ∈H と a,b∈F に対して、
<aΨ1+bΨ2、Φ> = a*<Ψ1、Φ>+ b*<Ψ2、Φ>
証明:
(1)(2)より、
<aΦ1+bΦ2、Ψ> = <Ψ、aΦ1 + bΦ2>*
=( <Ψ、aΦ1 + bΦ2> )*
=( a<Ψ、Φ1> + b<Ψ、Φ2> )*
= a*<Ψ、Φ1>* + b*<Ψ、Φ2>*
= a*<Φ1、Ψ> + b*<Φ2、Ψ>
4.公式
(1)と3より、
Ψn、Φm ∈ H an,bm ∈ F
5.ノルム
内積空間の 任意のベクトルΨ に対して、内積の正値性により、
という量が定義される。これをΨのノルムと呼び |Ψ|と書く。