ベルの不等式の破れ-概略(新版 量子論の基礎より)
EPR論文で、アインシュタインらは「量子力学は不完全ではないか?」 との疑念
を提示(というか攻撃)しました。
これは、ベルの定理を経て、アスペの実験で否定的に解決されました。
この「ベルの不等式の破れ」は、その解決以上に
「量子力学は、古典論や一般相対論などのどんな局所実在論より広い」
ことを証明するという成果を得ました。
まず、ベルの定理の前提
1.測定の局所性
空間的に離れた(互いに光円錐の外の)点での測定は
他方の結果に影響を与えることはない。
2.測定者に自由意志が存在すること
測定操作や測定機の設定は、自由意志で行われる。
3.局所実在論での量子的にもつれた実験
上記1,2を満たし、
ある物理量の状態が、量子的にもつれたA,B2つの粒子を
真ん中の地点から、分けて送って測定する。
測定する時点かその前に
「分からないだけで値や状態はどれかに」決まっている
とする。
「どれか」は、理論自体では決まらない場合でも
「隠れた変数」で決まる(隠れた変数は演算子でもよい)
「新版 量子論の基礎」§8ベルの不等式 の序文(かなり修正あり)
>
「ベルの不等式」が、古典論の破綻と量子論の本質を明確にえぐり出した。
概略は、以下のようなことである。
1.実験は、量子的にもつれた2個の粒子について、
月と地球のような遠く離れた2地点での実験を考える
(その実験での測定のタイミングは、互いに光円錐の外)
2.実験が終わってから、2地点のデータを持ち寄って、
何か関係があるか調べる。
関係があるかどうかは、数学的には「相関」を計算すればよい。
ただし、測定器の設定を「双方が黙って変えた結果の相関」
が重要です。
固定だったら、この本の例「鯛焼きの頭と尻尾」は、相関が1か-1
で、「設定を、相手に黙ってころころ変えた場合の相関」が、
はっきりでるような「相関を組み合わせた式」を作り、その値をC
とします。これが、ベルの不等式です。
3.理論計算1
局所実在論(含む古典論)で、上記の「相関を組み合わせた式の値C」
を計算してみる。
計算の結果Cは、-2≦C≦2 である
「隠れた変数」があって、たとえそれが演算子でも、
2になるのが最大です。
4.理論計算2
Cを、量子論で計算すると「状態の重ね合わせの影響」で、
C=±2√2 となる。これを、ベルの不等式を破る と呼ぶ。
5.アスペ等の実験結果
量子論が正しい=局所実在論では実験結果と合わない となった。
量子論の本質は、いわゆる「量子現象」を記述できることではなく、
このような「因果律を守る古典論=局所実在論」を破る現象を記述できるところ にある。
<以上
注意:
1.「因果律を破る」と早とちりしては、いけません。
「相関関係がある」だけで、「因果律は守られて」います。
(公害裁判なんかで、データの相関関係から因果関係が言えるか?
ってよく問題になりますが、たとえ100%の相関関係があっても、
数学的には「因果関係」は何も言えません)
2.「一方の測定の影響が、もう一方へ光速をこえて伝わる」というのは
「非局所論」です。
この場合は、|不等式の値|>2√2となり、これは「量子論」ではありません
したがって「量子論」をどういじくっても「超光速通信」は出てきません
3.「同時に測定した」わけですから、別の運動する系から見ると、
ある系と逆に運動する系では、
「先に測定した方」が逆転します。だから「どっちから、どっちへ伝わった」
とは決められません。